目覚めると、あの夏だった。
時は2006年
もうすぐ17才になる私には気になる人がいた
その年34才になる17才年上の親戚のお兄ちゃん
恋に恋してたふしはあるけど
10代の少女がときめくには
充分な理由だった
子供の頃から毎年夏になると
私の実家に来ていたお兄ちゃんは
父の従兄弟だ
なんとも思った事なんて無かったけど
たまたまその時好きだったアイドルと
お兄ちゃんが同じ歳だった
浅はかでくだらない理由
でも思春期の女の子なんて単純なもん
私の両親は4歳の頃に離婚し
母は私を父方の祖父母の家に置いて出ていった
父は単身赴任で離れて暮らし
私を東北の田舎で祖父母と暮らして
そのまま17才になった
月並みな話だけど
親の愛情に餓えていた私は
年上の男性に惹かれやすかった
以前なにかで聞いた事がある
親の愛情を受けなかった子供は
性に目覚めるのが早いって
住む場所や食料を自分で確保する能力のない
幼い子供にとって
親が自分に関心を示さないのは
命の危機につながる
生き物の本能として命の危機を感じると
子孫を残すため性に貪欲になるらしい
まぁ、そうでなくても
思春期なんて色恋で頭がいっぱいなのだから
彼氏がほしいね、なんて
友達と話ながらも
周りは幼稚に見える同年代の男子ばかりだった
一年前の夏
その年も祖父母宅に来たいたお兄ちゃんに
話しかけてみた
話したのなんて子供の頃に
「おまえ、パンツ見えてるよ」
って言われて以来位
年寄りと暮らし
周りは幼稚な男子ばかりの環境で
年頃になった私に34才のお兄ちゃんは
子供っぽくもなく
でもそこまでオジサンでもない
大人の男性に見えた
10代位の女の子は年上の男性に惹かれやすい
向こうの精神年齢が若いからか
私に話のレベルを合わせてくれてるからなのか
話してて楽しかった
次の年の春頃
毎日お兄ちゃんとメールをするようになった
平成半ば、メール全盛期の時代
ほぼ私から毎晩メールを送り
たわいないやり取りに付き合ってくれた
私は誰かに依存しやすいタイプだ
その年も夏がやってきた
私は胸下まで髪がのび
膝上のワンピースを着ていた
いつもメールでのやり取りばかりだった
久々のお兄ちゃんの声にドキっとした
好奇心まみれの17才の私は
お兄ちゃんにうしろから抱きついた
無反応のお兄ちゃん
何回か抱きついていると
お兄ちゃんが言った
「なんでくっつくの?」
「だいすきだから」
「ああ」
暗黙の了解で流れる空気
私はいたずらに後ろから胸をおしあてた
「胸をくっつけるな」
「くっつけてないよ」
「え、そう?」
暑さでうなだれたお兄ちゃんの腕に
ぎゅっと絡みつく
恋心半分
父性愛欲しさ半分
「だから、なんでくっつくの?」
「すきだから」
「じゃあ胸触らせて」
「やだ!」
と、私が言うとお尻を揉まれた
「夜、一緒に寝よう!」
そう私が言うと
まんざらでもない表情で
「じゃあお前の部屋で一緒に寝ようよ」
と、お兄ちゃん
私は正直何をどこまで
考えていたわけでもない
誰かに甘えたかった
抱きついていると
一緒に来ていたお兄ちゃんの両親が
「あんた達暑くない?」
「別に」と私
「離れなさいって」
「うーん‥‥‥」
「離れて、離れて!」
しぶしぶ離れる
ふてくされたように
客間の布団に頭までもぐるお兄ちゃん
「ねぇねぇ一緒に寝よう」
私は気まずさから余計に絡んでしまう
「だめ」
諦めて私は一人
自分の部屋に戻った
夏もおわり、お兄ちゃんが帰ってからも
メールのやり取りはちょくちょく続いた
私は初めての失恋で落ち込み
あまり自分から連絡をしなくなっていった
そんな日が続き
珍しくお兄ちゃんの方からメールが来た
「最近メールしてこないけど
うちの母親になんか言われた?」
「何も言われてないよ、なんか言われたの?」
「付き合っちゃ駄目って分かってるよね?
って。
親戚同士で付き合っちゃダメなんだよ
だから世の中の人は皆他人と付き合うだろ?
俺の事好きなの?
引かないからさ、本当の気持ち言っていいよ」
私あんなに好きって言ってたじゃん
そんな事、聞かなくても
分かってるくせに
「お兄ちゃんにとって私はどんな存在?」
「どんなって、従兄弟の子供だよ」
一緒に寝るの、乗り気だったくせに
胸触ろうとしたくせに
お尻もんだくせに
いきなり常識人ぶってズルイ
「だよね。恋愛感情じゃなくて
"お兄ちゃん"的な存在だよ!」
普通、告白ってOKかNOでしょ?
なんで私は引かれるかNOの2択なのよ
ホントの気持ちなんて言えないじゃん
それからもメールは時々続いたけど
どんどん回数が減っていった
次の年の春
お兄ちゃんの母が祖父母宅に来ていた
用事があったようでお兄ちゃんに
電話をかけていた
電話の向こうから
かすかに漏れる声に
私は動揺した
つい、とっさに
「電話代わって!」
とお兄ちゃんの母に頼んだ
「もしもし、久しぶり!」
「ああ」
「またメールしてもいい?」
「いいよ、別に全然」
その夜、久しぶりにメールのやり取りをした
「なんで今までメールしてこなかったの?」
「仕事の邪魔かなって」
お兄ちゃんが新しい職場に
就職したばかりなのを知っていた
「別に大丈夫だよ」
また少しづつメールするようになったけど
続かなかった
私のメンタルは
思ったよりズタズタだった
お兄ちゃんからメールが来る事も無かった
それから私の祖母は亡くなり
親戚もお兄ちゃんも
我が家に来る事はあまり無くなった
久しぶりに会う機会があった時
私が他の親戚のお兄ちゃんと
話をしていると
わざと私に聞こえるように
他の女の話をしてくる
幼稚なんだよ、ほんとにさ
もう少し私が上手に恋してればなぁ
好きって言ってればなぁ
メール返し続けてればなぁ
今だったら出来るのに
出来るかな?
私は何も変わってない
生きるのが下手なまま
こんなに月日が流れたのに
ずっと、あの夏をループしている