漆黒の闇にたたずむ、若く美しい女性。
彼女の腕の中には乳飲み子。
まだ、十代のシングルマザー。
乳飲み子を抱き、闇を歩く。
赤い点滅に向かって、闇を突き進む。
乳飲み子の温もりを感じて、柔らかな頬を撫でる。
カンカンカンと鳴る赤い点滅。
彼女は降りてくる遮断機をくぐり抜け、線路の真ん中に立つ。
彼女は乳飲み子の寝顔を見て、微笑む。
彼女は頬を涙で濡らしながら、乳飲み子をギュッと抱きしめる。
ごめんね、と呟いた。
やがて、列車のライトが見え、近づいて来る。
ガタタン、ガタタン、と近づいて来る。
そこへ、若い男性が走って、遮断機をくぐり、力ずくで彼女を突き飛ばす。その瞬間、列車は走り去った。
二人は転がり、彼女は乳飲み子をしっかり抱いていた。
彼女は泣き崩れた。
男性は彼女の肩に手をやり、安堵の笑みを浮かべ、そっと乳飲み子を撫でた。
遮断機が上がり、二人は線路から出た。
男性は彼女を自宅に連れて行く。
温かい飲み物を出して、彼女を責めるわけでもなく、ただ乳飲み子の名前を聞いた。
「光」と書いて「こう」と呼ぶ。
男性は乳飲み子を抱かせてもらった。
その温もりは生きている証。
彼女はあちこち怪我をしたが、乳飲み子は全く怪我をしていない。男性は傷だらけだった。
彼女はぽつりぽつりと話だした。
男性は静かに話に耳を傾けた。
話が終わる頃、カーテンの隙間から太陽の光が差してきた。闇だった世界から眩しい光が強く差し込む。
乳飲み子が目を覚まし、母親を見て、にっこり笑った。
彼女は男性にお礼を言って出ていった。
眩しいほどの朝日の中で、彼女は上を向いて空を見上げ
力強く歩いて行った。彼女はもう、負けない。
この子がいる限り、生きていこうと。
そう、誓った。