美しさを忘れた蝶は蜘蛛の魅力に魅されてしまった

作者yuu

ドラマみたいな素敵な展開を夢見る少女を
迎えに来たのは王子様ではなく、逃亡者だったのです。

あ、雨。

バス停の屋根の下でバスを待っているとポツリポツリと雨が降ってきた。

どーしよ、傘持ってきてないや。

バス降りたらダッシュでコンビニ行って傘買わなきゃ。

これからあたしは愛しい彼に会いに行くのです。

なにせ今日は付き合って1年記念日ですから。


ピコンッ


そうそうこうやって読者さんに説明している間にもLINEで連絡きちゃうんだもんね。


”ごめん、今日バイト入っちゃった。”


…あたしの自慢の彼は忙しい人なのよ。

そう、誰からも頼られて、NOと言えないほど優しくて…。

でもさ、記念日くらいバイト入れないようにしようよ。

仕方ない、大人しく帰りますか。

この雨の中濡れて帰りますよ、風邪引いたら彼のせいにしちゃおう。


あたしはかばんを体に引き寄せて、小走りした。

あーぁ、スカートなんて履いてこなければよかった。

無理してこんなヒールはいてこなければよかった。

あ、コンビニ。

傘買ってこう。


「いらっしゃいませーっ!」

元気のいい声を聞きながら雨で濡れてしまった体を手で拭った。

かばんからくしを出して店内を歩きながら髪をとかした。


んー、あんまりお金無駄遣いしたくないし傘だけ買って帰りますか…。


500円と表示された透明のビニール傘を一本抜いて、レジに持って行き会計を済ませると値札をはがし、外に出ると少しビニールの嫌なにおいをさせる傘をさした。


バサッ


一人分には少し大きい傘ね。

それが少し悲しくさせた。


「お嬢さんどいて!!」


えっ?


後ろから声がして振り返ろうとした瞬間、なにかがすごい勢いでぶつかってきた。

その衝撃であたしはその場に転んでしまった。


「大丈夫!?」


あたしの少し上から声がするので見上げてみると、そこには金髪の男が見下ろしていた。


「あ…大丈夫です…。」

「ならよかった…。」


男は心配そうな顔から少しほっとしたように笑った。


あ、かわいい…。


「ごめんね、俺少し急いでるんだ。

ほんとにごめんね。

それじゃあ!」


それだけ残すと男は走り去ってしまった。


…なんだったのよ。

あーぁ、服も濡れちゃったし。

これはクリーニングね…。