心菜りず
水槽の中で何を思う
何故もっと早く読まなかったのか、と読み終えて一番に思いました。
まず、魚と餌に見立てた描写。言われてみれば確かに学校の教室は狭い水槽で、良くも悪くも目立った“餌”はあっという間に“ピラニア”に食いつかれ、広まってしまう。“小さな水槽で上手く泳いでいく”のは、きっと多くの人が経験したことがあるのではないでしょうか。
その水槽の中で起こる出来事、それに対する卯深ちゃんの思い。境遇や過程は違えど、卯深ちゃんが今までの私を巡ったように思えて、とても共感しました。読者の誰よりも感情移入してしまったかもしれません。それはきっと、依織さんの文章が綺麗なだけでなく現実味の帯びた部分をありありと書き綴ってあったからかと思います。
“穴をあけるだけで運命が変わるなら苦労しない。わかってはいる。でも、頭では理解しているけど惹かれてしまったんだ、その言葉に。あけたいと思ってしまったんだ。”この文章が、タイトルと、卯深ちゃんの変化と、想いを、何よりも表しているのではないでしょうか。
もしも卯深ちゃんが私の前に現れたら、そっと手をとりたい。そんなことも思いながら、最後まで読ませていただきました。