小泉秋歩

妄想が現実になるとき
上条望はインターネット上でファンタジー小説を公開している男子高校生。次に何を書こうかと考えていたある日、望は図書室で、中身が白紙だけの本を見つける。しかしそれは、「自分の妄想にダイブ」できる不思議な本だった。望はその能力を使って、リアルな猟奇殺人小説を書き始める。
同じ頃、望の女友達である真下美有に対し、何者かが陰惨な脅迫を仕掛け始める。
不思議な本と脅迫事件、2つの事柄に共通するのは「厳島神太郎」という、自殺した天才小説家で――?

ファンタジックなアイテムを鍵として、途中までは破滅的な方向に進んでいきます。しかし、これは絶望の物語かと思いきや(いや、そんなふうに「勝手に思い込む」ことがそもそも間違いで)、この物語の本質は「人間同士の誤解やすれ違いから生まれる悲劇」と「その救済」を描く、骨太の本格ミステリです。ちゃんと伏線も随所に張ってあります。最大の伏線は冒頭で紹介されるナイトヴァロン…いや、これ以上は語りますまい。

「妄想をもって現実を描くのが作家であり、想像をもって現実を描くのが作家」、このメッセージ、心に深く受け止めましたよ、龍谷さん。お元気そうで何よりです。