うのたろう
水彩画のように、淡くやさしくやわらかな作品
水溶性の絵の具で描いた絵画のようで、淡い色みとやわらかな雰囲気を放つ作品だった。
物語は、美術部部長の主人公・天草絵美と、おなじ部活の男子・真広司のふたりの視点で展開する。
一見するとバランスの悪い一人称にも見えるが、おまけページの番外編(一本目)を読めば、なるほどなと思う。
この部分をふくめての必然だったのだろう。
ストーリーはシンプルだ。
才能はあるのに絵に興味がないという美術部員・真広司が、学内の展示にむけて一枚の絵を完成させ、それを主人公・天草絵美に見せるというもの。
作中で真広は絵美にいう。
「見たまんまじゃなくて、感じたのを描けばいい。写真じゃないんだから」と。
この作品のうまいところは、冒頭からエンディングまで一貫して、一本の芯がぶれずに支柱のようにささっているという点だ。
作中の学内展示とおなじ「身近に感じる」というものがテーマになっている。
ひじょうにシンプルであるが、こういう作品は読みものとして無条件におもしろい。
ラストシーンで真広が自分の描いた絵を絵美に見せ、いったひとこと。
ここがたまらなく、いい。