僕が潔癖症を患い入院していたときの話です。
そこはただ共同生活を遅らせるだけの隔離施設と同等な場所でした。
常に周囲の人間やTVに出ている人間に向かって「キチガイキチガイ」と連呼する人物、
小便をする時に便座を上げない人、洗面台に向かって小便をする人、あるいは大便までしてしまう人。様々な精神病患者がいて頭がおかしくなりそうでした。
「彼女」に出会ったのはそんな時でした。
同じ患者として入院している彼女。
その子は患者の大半と違ってまともに頭の働く人でした。
僕は異常な入院棟にただ参っているだけでしたが彼女は違いました。
ただ面倒見がよく患者間での助け合いを重視し、常に明るい子でした。
僕は彼女がなぜ入院しているのかわかりませんでした。
暫くして僕と彼女は仲良くなり、気づけば二人一緒にいる、そんな入院生活でした。
参っていた僕の精神の方も回復し、病気の方にもとてもいい傾向が現れるようになっていました。
僕は自分の精神病、潔癖症を恥ずかしく思い誰にも言えずにいましたが彼女はそんなことなく自分を異常だとは思わず「精神病=個性」と捉えているようであえて何も変えようとはしていない様子でした。
また暫くの時間が流れ、僕は彼女にだけ自分が潔癖症であることを明かしました。
すると彼女は言いました。
「私は汚い?」
僕は音がなるほど顔を横に振りました。
すると彼女は続けてこう言いました。
「じゃあ君が汚いと思うものに私が触れてあげる。
それでダメならキスしてあげる。
どう?」
と。
僕は恐らく人生で一番といっていいほど戸惑ったでしょう。
そんなこと言われたのも初めてですし、何より僕を異常者扱いしないことが嬉しかったのです。
しかし、精神病院というのは男女が仲良くなるのを禁止している場所でもありました。
看護師や医師は僕たちが必要以上にくっつくのを禁止し、僕を別の階に移しました。
そこは老人ばかりの棟で、若い人間は僕を含めて2.3人というところでした。
折角潔癖症もいい感じに治っていたのに病院のルールを取った看護師・医師に恨みを持つこともありました。