別に、生きたい訳じゃない。死にたい訳じゃない。―――アイツのいない世界で、生きていたくないだけだ。




「っ、…ハァ…ハァ……」



コンクリートの上を駆けてゆく。


空は茜色に輝いて、太陽は今にも隠れんとしている。


ゆっくりと闇が忍び寄る。


そんなとき、街中を駆ける幾つもの影。



「いたぞ!こっちだ!」



見つかった。


逃げなくては。



「とまれ!止まらないと撃つぞ!! 」



止まったとしても、俺を"壊す"くせに……。



「っ…!」



頭の中心付近に鈍痛。


(ウィルス…!?)


いつ、仕込まれた?


回線は全てシャットダウンしているし、あいつらのネットワークに繋がれた記憶もない。



足が重くなる。

俺はその場に膝をついてしまった。


頭が回らない。

抗ウィルス機能は、もう破壊されたらしい。



逃げなくては、と気持ちばかりが先に行く。



すぐ後ろで、あいつらの足音がした。



「手間かけさせやがって…!」



俺は膝をついたまま何も出来ずにいる。


かなりの距離を走っていたらしい。

いつの間にか見慣れぬ風景。


自分と同じアンドロイドが何かを運んでいる。



「おい」



機動アーマーに身を包んだ男の声がすぐ後ろで聞こえた。



「こいつを運べ、今すぐにだ」



他の奴らにかけられたであろう言葉。


首の後ろに当てられる、冷たい感触。



俺は、ゆっくりと目を閉じた。





嗚呼神様、もし…もし貴方がいるのなら。


せめて、せめてアイツだけは…








――――――――プツン















別に、生きたい訳じゃない。


死にたい訳じゃない。





アイツのいない世界で、






生きていたくないだけだ。