作品コメント

薄荷 羽亭

2020年7月9日

整った文体の中、テンポ良く進む物語。
気心の知れた仲間との軽快な会話が心地良く、どんどん読み進められます。
読者を置いてけぼりにしない、丁寧かつ物語の雰囲気を壊さない説明も魅力の一つ。

主人公であり語り部の、亜希子という人物。
「向かうところ敵なし！」な傍若無人っぷりながらも、きちんと筋道わきまえている性格には、見る人に爽快感すら与えるのではないでしょうか。

時折、散りばめられている小ネタのような文章にも、思わず失笑してしまいます。
「あるある！」と共感出来るネタは、まるで友人とのトークに花咲かせているかのよう。

もちろん、物語もとても心躍る展開が待ち受けています。

業界の波に必死に食らいつく、小さな出版社に突然舞い込んできた大手からの商談。
個人的と言っても差し支えないその誘いは、亜希子の内に潜む熱いジャーナリスト魂を大きく揺さぶるもので――

と言えば、怒号と紙の束が飛び交う戦場のようなオフィスを想像してしまいますが、実際の最終決断は現金なもの。

多くを語れば勿体ない。
コーヒーとは言わずとも、お気に入りの飲み物を添えて気軽に読んで欲しい、そんな素敵な作品でございます。

待ったかいがありました！
完成したのを知って、前に読んだのはいつだっただろうって思いました。

時間が経ったからこそ、前みたいに物事を感じ取れなくなることもあります。
だから前みたいに楽しめるかって。
ちょっとだけあった不安は3分で吹き飛びました。

ふと気がつけば、『あれ、今私どこにいる？』と不思議な気持ち。
すとんとこの世界に入っちゃうんですよね。

それでふとレビューを見たら、数年前の自分が同じことを書いていて笑いました。


一番好きな人物は、やっぱり…



決められないですよー！！

だって、あの強くて弱くて可愛いあの人も好き。
不器用なくせに思い切りアレなあの人も好き。
有能な彼女とこれまた男な彼も好き。
それだけじゃなくて、あそこで働く人たちの作り出す空気。
あのお店で美味しいものを、楽しむひとたち。
タバコのにおいと扇風機や古いエアコンの音が聞こえてきそうなあの店のあの人。

みんな、大好きなんですもの。
本当に読んでよかった。
読み終わるのが寂しくて、読みながら、毎回とっても幸せでした。