うのたろう
原始的で挑戦的な作品
スタイルは小説というより日記に近い。
人に読ませることを前提にした日記である。
読みやすいが、文章じたいが切羽つまって荒々しい。
そんな印象を受け読みすすめていくと、最後のページであとがきにぶつかる。
実話ベースとのこと。
たぶん起承転結はこの作品にとって、それほど重要なものではないのだ。
作者が見せたいのは物語ではなく、文章の持つ気迫。
どろどろと流れる血液のようなもの。
物語は、寺の坊主・行栄と恋人関係になった主人公あたしが、なにもかもを皮肉るといったもの。
主人公あたしには、おおくの知識があり、プライドがあり、息苦しいほどの自己顕示欲がある。
そんなあたしに皮肉られてしまう寺が、この「朱い虚塔」というタイトルにつながってくるのだろう。
文章は一文が精進料理のように簡潔で、あたしの知識や気持ちのみが語られる裸のようなスタイル。
読みやすいのに、さまざまな情報が頭のなかに自然にはいってくる。
また、このスタイルをとることによって主人公あたしが牙をむきだしているようにも見える。
世界にかみつけ。
原始的で挑戦的な作品だ。