小泉秋歩

ホラー伝奇小説の秀作!
時は明治時代、日露戦争が明けて間もなくの頃。巷では、謎の人間消失事件が立て続けに起こっていた。
一方その頃、しがない巡査・瀬田隼人は「林右京」という人物を捜すという軍部からの密命を受けて、日本中を訪ね歩き、石北という閉鎖的な町にやって来た。そこには「梅雨の間は入るべからず」という禁忌のある山があった。
右京の手がかりを求めて、瀬田はその山に住む「国安椿」という謎の男に会いに行くのだが――

幻想的かつ耽美的なホラー伝奇小説。
じっとりと湿った仄暗い雰囲気の中、徐々に狂気の色を濃くしていく展開が伝奇小説好きにはたまりません。

物語の中盤、瀬田が美しい娘・千穂に出会ったことで、瀬田の思念の中に“誰か”の思念が混ざり始め、物語が二重の視点で語られるという非常に難解な構成になるのですが、それをとても上手く処理していて、ミステリー小説としても楽しめます(伏線がまた上手いこと張ってあるんですよ)。

ラスト近くで明かされる衝撃的な事実をお楽しみに。

それにしても、梅谷百さんの変幻自在の「筆使い」には、いつも驚嘆させられてしまいます。