天詠水譚 囚われの模写師と目覚めのとき

作者梅谷 百

魔法がごくあたり前に存在した、日本の戦国時代。
織田家を始めとした大名家は魔法部隊を擁して戦乱の世に明け暮れていた。
そんな中、日本一の魔法使いの家と称される鷹無家の分家である未鍵家で、魔導書を模写する模写師として働いていた澄は、自分に宿る力で何不自由なく暮らしていた。

澄の模写する魔導書は、唱…

 青白く光り輝くそれに手をかざすと、心が弾む。

どこの国の言葉かわからないけれど、でもまるで誰かが口ずさんで歌っているような声が聞こえるから。

 天から降り注ぐ歌声は、あまりに澄み切って神々しく、いつまでも聴いていたくなる。

 昔の人は、この不思議な力を《天を詠む》ことで使える、つまり《天詠てんえい》と言ったそうだけれど、この歌声を聴いている時、その言葉がとてもしっくりくる。


 私はこの歌声を聞き取って、言葉を一つ一つ何も変哲のない紙の上に書き写していく。

 全て写し終えた時、それは原本と同じように静かに青白く光り出し、不思議な力が紙の上に漲って、全く同じ曲調で歌い出す。


 それを聴くのがとても好き。

 そして思う。




 ――これこそが、【魔法】だと。




【メディアワークス文庫様から、2022年2月25日に発売される、『天詠花譚 不滅の花を君に捧ぐ』の姉妹編となります。完全に独立したお話なので、花譚を読まなくても大丈夫です。是非お楽しみください!】