大事にしてきた人を失い、残された人間の落ちぶれようは、人の予想を越えるものだ。
そして、再成長を遂げる人間の強さを、隣で見てきた人間が抱く感情も__。
どれほど人を想っていようが、消えるのは一瞬であり、そこに余韻などあるはずもない。
そう、頭に刷り込んだ人間は、次第に「愛」を忘れ、慈しむこともなくなり、廃れていく。
亮は廃れているも同然だった。
小さい頃から両親の醜態、所謂、離婚寸前の夫婦喧嘩を日常のように見てきた。
母親は毎回泣き崩れ、父親はふんぞり返る。そのさまを亮は最初こそ心を傷めていたのだが、それでは自分の身が持たず、「二人が仲良くなって、一緒に出掛けたい」という願望も叶わないことを知ると、客観的に親と接するようになる。
今日も父親は浮気をし、平然と嘘をつき、平然と自分の借金を母親に払わせ、仕事をせず、駄目父の典型であった。
そのなかで育った亮や、弟の鳴海、雅人も小学生なりに思うことはたくさんある。
ただ兄である亮に、すがることしか両親の醜い現場を見ずに済むことが、悔しくもあった。
今年の春、亮は高校二年生に進級した。成績優秀、運動神経も申し分ない。そして、女が寄り付くような顔をしていれば、周りも野放しにするはずがない。
そうして出来た彼女を、去年の夏、交通事故で亡くし、廃れる一途を辿ったのだった……。