生き方のスタートライン

作者小田康へー

深大寺秋彦はライトノベル作家を目指す、 フリーター。 そんな中、 図書館で大沢富美子という自閉症を持つ声優志望のフリーター女性をみつける。

――――深大寺秋彦 

「会社を辞めるって?」 そんな同僚の疑問視した声が、 秋彦の耳を突き抜けた。秋彦なりに噛み砕いて、 納得の行く理由で会社を退職しようとしていたが、同僚の声は何を寝ぼけたことを言っているんだ。 顔でも洗って来いと言っている様な返答をされてしまった。「ああ、 さっき課長にも退職届を提出してきたんだ。 今まで世話になったな」秋彦は真顔である為、 同僚は何をふざけた事を言っているんだと思いつつも、 それ以上は相手にせず、 キーボードをまた、リズミカルに打ち始めたのであった。幾ら、 会社の同僚相手といえどもいざ辞める相手となったら、 もう赤の他人、 冷たい反応であるも数人の人には退職する事を残念がられた。 新卒からお世話になった平和建設株式会社を三年とちょっとで退職するのである。 課長に退職届を提出してからは、何日までに会社の寮を明け渡しなさいという説明や会社との書類の手続、 ハローワークへの顔出し等の面倒を見て貰え、 スムーズに会社を退職したのであった。秋彦は実家へとんぼ帰りをした、 実家は三鷹市にある小さなアパートで両親と暮らしていた。 両親は一人息子が会社を急に辞めて、 夜遅くまで大喧嘩にもなったが、 小説家になりたくて、 会社を辞めたという事を素直に話したら、父親はまだ若いし、 良い人生経験にもなるだろうと、云う事で軽く二、 三の返事をして最終的にはそれまでの嵐の様な言い争いは嘘の様に消え去り、 父からの承諾を得た。「まあ、 私だって秋彦が今まで働きながら何か、 もの造りに没頭していたのは解るけど、 まさか小説だったとはな……。 まあ、一年間、 時間をあげるから頑張りなさい。 母さんだって身に覚えがあるんだから、 今回はあまり文句の言えない判断だったな」と禁止だったはずのタバコをふかし、 腑に落ちないところもあるが答えてくれたといったところであった。「そ、 そりゃあ。毎晩、 この子が自分の部屋で何かやっているというのは解ってたけどまさか、 小説だったとは私も知らなかったわ。 まあ、 後悔するも花を咲かせるも自分の一度きりの人生よ。 頑張りなさい」母も美人の顔には似合わない、 気難しい顔をしながらの返答だった。「大変、 ご迷惑をお掛けしました。 それでは一次選考以上、 突破できるように新たに小説を書かなければいけないので、 早速今から書き始めます」