夏海ゆりは東京の短大を卒業後、中小企業の事務として東京の会社に就職し、OL二年目の22才。


どん底のある日、意外なところで高校時代の後輩と再会した。

「大輔、愛してる・・・・」


「俺も、愛してるよ澪・・・・っ」


でかいスクリーンで繰り広げられる濃厚なラブシーン。


(あぁ、失敗した・・・・)


内容も確認せずに、ちょうど始まる映画のレイトショーの開始時間で選んで足を踏み入れたことに、私は激しく後悔していた。


スクリーンの主人公とその恋人の二人は、お互いの気持ちに素直になり、幸せそうに愛を確かめ合っているというのに。




『ごめん、別れよう────』


彼氏に先程そう言われたばかりの、

まさに現実(リアルタイム)で失恋したての私には、

自ら傷口に塩、いやハバネロをすり込みに来たようなものだった。



(何やってるんだろう、私は。)


─────暗い映画館に、独り。


感動のシーンでもないのに、私は涙を流していた。



(好き、だったのになぁ─────・・・・)


私の気持ちは、変わらないのに。

彼の気持ちは、変わってしまった。

そんな私が彼に出来ることは、“別れ”を受け入れることだけだった。


(これで明日も会社とか、きつすぎる。)


社内恋愛なんて、するもんじゃない。

学生時代の友人が、つい先日そんなことを言っていた。

─────その気持ちが、今分かった。





「あのこれ、使ってください」


スクリーンを見ながら静かに涙を流していると、

突然左隣からこそっと耳元で囁かれ、目の前に白いハンカチを差し出された。


(え。泣いてるの気付かれた・・・・・っ!!?

というか、他人に気を遣われている私──────)


驚いた私は慌てて涙を素手で拭い、ご迷惑お掛けしてすみませんと言うために隣を向いた。


(え・・・・ )


「───吹成(ふなり)?」


隣に座っていたその人の顔を見て、私は思わずそう呟いていた。


それは高校時代の後輩、吹成(ふなり)泉(いずみ)だった。