君の見た世界にもう僕はいない

作者水子

1 プロローグ


2XXX年

誰かが世界の変わる発明をした。

誰もがその発明を喜んだ。


発明品の名前は キヲク

それは小さな小さなチップのことで、そのチップを脳に埋め込むと、モノを覚えようとしなくてもすべての見たこと、感じたこと、風景などをインプットすることが出来た。

誰もがその発明を喜んだ。


明日漢字のテストがある少年も

息子の顔を最近忘れてしまう老人も

デートの時間を忘れてはいけない青年も

明日 参観日があるどこかのお母さんも

大切な彼との思い出をたったの1つも忘れたくはない女の子も

たまたまぶつかった優しそうな青年の顔をずっと覚えていたい少女も

誰もがその発明を喜んだ。


その発明品は瞬く間に広まって

すぐに皆が手に入れた。

誰もがその発明品を素晴らしいものだと信じて疑わなかった。

そして人々は少しずつ本当の 記憶 を無くしていった。必要のない力が無くなるのは当然のことだ。しかし誰もがそれに気付かず 気付いたとしてもキヲクを手放すことなど出来なかった。



もう、キヲクを脳に埋めていない人などいなくなった時代。

それは小さな町の事故だった。