神木うささんの企画の応募作品です。
とあるバーテンダーとの静かな恋愛物語。
二人の縁を繋ぐ“もの”とは……

 雨が降り注ぐ都心。

 ビニール傘が大粒の雨を幾粒も跳ね返しては、足元にボタボタと落ちていく。水溜まりというよりは地面全体が水を張り始めたプールのような状態で、普通のスニーカーを履いていては靴下がグショグショになるくらいの、季節外れの豪雨だった。



 建物と建物の隙間の、太陽の光さえも届かないような路地裏で。



 屋根も、足元を濡らす水を防ぐような段さえもないその場所の、雨雲のせいでいつもよりも薄暗い路地裏の入り口で、片手に置き傘を握りしめて彼女は立ちすくんでいた。





『お前、俺の家に来るか?』




『ニャー』




『よし、良い子だ』





 ずぶ濡れな子猫を抱えた、これまたずぶ濡れなフードを被った男が、高い高いをするように、その小柄な身体を大きく持ち上げると、優しそうに微笑んだ。




 彼女は、胸に広がる安堵と、寂しさと、ちょっとした高揚を感じながら、鞄の中から抜き出しかけていた置き傘をそっとしまった。それから鞄から手を抜くときに、コロンと、透明な包装ビニールに、キャンディーのように端と端が軽くねじられたクリーム色の物が地面に転がった。





『ニャー』





 すると、それに気がついた子猫がそちらに顔を向けて、いつものように甘えたような鳴き声をあげた。




『どうした?』




 それに首をかしげた男が路地裏の入り口に顔を向けるが、そこには何もなかった。

 猫が身体をよじり、男の手から抜け出すと、地面に転がって、雨に打たれる小さな塊を足で転がした。




『何これ』




 男はそれを拾い上げると、首をかしげた。









『…………お菓子?』