うのたろう
すばらしい実話とフィクションの融合
うまい。
まずは単純な感想だ。
なにがうまいって、ふたりの目線で進む一人称がばつぐんにうまい。
ページごとに交互にいれかわる主人公・倉木夏花と後藤恒希。
ふたりがライヴハウスで出会うシーンで、それぞれの一人称が重なる。
「気持ちいい」
重なった瞬間にそう感じた。
実話ベースとのことだが、小説としてのつくりこみかたもすばらしかった。
机のらくがきからはじまる、ふたりのやりとり。
その実話の部分から、後半のフィクションの部分へと物語は流れる。
だが。じっさい読んでみると1ページ目の1行目からすべて計算されつくされているように思える。
それほどに自然な実話とフィクションの融合だ。
机の落書きも、ただ甘酸っぱいだけではない。すべてがうまいのだ。
ふたりが出会うシーン。
そして同時にバンドの演奏。
あげればきりがないが。
個人的なベストは後藤恒希がしぼりだした落書き。
「I’m a guitarist.
・・・ヘタクソですけど」
これがたまらなくいい。
うまい小説を読みたいすべての人に、おすすめだ。