眠空

寂しさと寂しさが出会う場所
日常の些細な出来事の積み重ねによって心が潰されていく。
一つの歪みから悪い方へと転々と落ちていく怖さと、当人でさえ説明できない絶望感と倦怠感。

その先に、あの“列車”があった。
レトロ感漂うその列車の中で出会った“エスエス”は、身体は人間、頭はクマの着ぐるみを被ったひたすら謎な存在。死神なのか天使なのか、それとも死者なのか。
ただ、大切な何かを気付かせてくれる導き手だというなら、エスエスが何者であろうと車窓の景色が真っ暗であろうと、その列車もエスエスも寂寞の夕日のように優しい。

生きるも死ぬも結局は自分で決めることだけど、死にたいと思う理由が些細なことの積み重ねなら、生きようと思う理由も大きな“些細”。その些細を何かが与えてくれれば、人は生きていける。

「ああ、やっぱり生きよう」。そんな小さな決意からやり直しが出来るんだと、そう思い起こさせてくれる作品でした。

大仰でない比喩表現の数々、文章力の高さから、とても読み易さを感じ、不思議な雰囲気とキャラクター、台詞回しも魅力的。
ほろりと来る優しさや物悲しさが切なく胸を打つと同時に、勇気ももらえる秀作です。