―知らなかったよ。


――知るわけないでしょ?


―――貴方はいつもそうだった。



「空が好き?」


青く染まる瞳が微かに揺らいだだけで、彼は答えない。

彼の意識は空にある。私を認識していない。

それなのに、唯一繋がっている手と手。

感じる体温、生きている心地、溢れる感情。



全てが愛おしくて、でも、全てを手に入れるには対価が大きすぎて。


草原のように、海のように、あの空のように、広くなれればいいなと思った。


強く握った手が、いとも簡単に解かれる。

手を伸ばした。声の限りに叫んだ。

行かないで、おいて行かないで。

貴方の進む先に、青空はない。気付いて。





―――お願い。