「いや、違う」
「あぁ、なるほど」勇二は全てを理解したように、「恋煩いか」
泰行はからだに熱を感じた。恋という単語に、微妙な抵抗をかんじていたからである。
たしかに深山に対して恋をしているのは否定しようのない事実である。
だがしかし、泰行は自分が恋をして良いような人間ではないと思っていた。
だからこそ、恋という単語が心に引っ掛かって仕方がなかったのである。
「で、誰?どんな人?」
「誰にも言わないと、約束するか?」
「大丈夫、俺の口は固い」
泰行は大きく息を吸うと、ゆっくりとそれを吐き出した。そうやって、一時的でも心を落ち着かせる。勇二と話していると安心できるから、不思議だった。
泰行は目を瞑ると、ゆっくりと、口をひらいた。