鬱蒼と生えた草が夕日の中で微かに揺れる。桜の木に付いた花びらが春風に吹かれてハラハラと舞い上がる。半年振りに訪れた主人の墓石は、私の予想以上に汚れていた。

 私は柄杓で水を掛けて掃除をし、主人が好きだった煙草を供える。交通事故での死。主人が何時も隣に居るのが当たり前の毎日は、シャボン玉が弾ける様に儚く消し飛んでしまった。大切な人を失う悲しみは、時間が発つ程に辛くなる物だと云うのを私は初めて知ったと思う。主人を亡くしてからの毎日は、日常の中にポッカリと穴が空いた様に、形の無い何かを私から奪い去った。時間が過ぎる程に心の傷は癒えて行くけれど、その変わりに色褪せて行く主人との思い出に私は毎日怯えていた。誰も居ない一人の部屋は何処か寂しくて、ふとした時に心が疼き、その度に自然と涙が溢れて来る毎日。