プロローグ
――海辺(シーサイド)。
静かに波打つ音が聴こえる。
二月というのはやはり季節外れで、人の姿はまるで見当たらない。
しかも時刻が午前五時だから、それは当然の事であった。
そんな時に何故彼女は来たのだろう。
答えは実に簡単だった。
誰もいない。つまり誰にも見られる心配がない。
その方が彼女にとって都合が良かったからだ。
そう、誰もいないはずだった。
誰もいないと思っていたのだ。
しかし、それは間違いだった。
普段ならこんな時間に来ないはずの彼が、この日に限って来ていたのだ。
海辺(ここ)に……。