芽のでない種

作者rinka*







「ねえ、紗良?」





何も答えない電話の相手に

私はもう一度呼び掛けた。


少し寒くなってきた秋の夜。

窓から、見える三日月に思わずみとれた。

もしかしたら紗良も見ているのかもしれない。



いや、もしかしたら彼女は三日月さえ………




悪い予感がした。


そして少しの沈黙が流れ。






『……紗良?』





電話の向こう。

透き通る美しい声で、彼女はそう呟いた。












深い悲しみさえ

いつかは愛しく感じる事もある

だけど、私は

過去を愛し、未来に絶望を抱く事しか

今は出来ない。




私は今、蕾だろうか。

いつか咲くときが、くるのだろうか。

でも彼女は咲くことが出来ない。

蕾にもなれない、芽のでない種なんだ。









***芽のでない種***

→ start