夏休みが終わったと言ってもまだ暑さの底が見えないというのに、少女はシャツの第一ボタンまできっちりと閉めた上、長袖を着ていた。
髪はどこまでも黒く、真っ直ぐだ。横髪も顎の線に揃えて一直線、後ろの髪は腰まで伸びて、やはり切り揃えられていた。
季節感どころか、そこには時代すら感じられない。
大きな目は長い睫毛に縁取られ、肌の白さとは対照的な真っ赤な唇はその存在感を恐ろしいほど現している。
その小さく赤い唇を少女は開いた。
「くそ暑い!もういやああああ」
美少女と言っても良いはずの彼女。だが彼女は残念だった。
そんな彼女ーー市松日和(ひより)と、その周り人間によってこれから幾多の喧騒が巻き起こる。
だが今はそんなことは知らぬとばかりに、セミはけたたましくつがいを求めていた。