栗栖ひよ子
桜が美しい理由
桜が紅いのは、根元に死体が埋まっているから。
そんな言い伝えを、誰もが一度は、聞いたことがあるだろうと思います。
作品の主人公、蓮華は、15年間もずっと、隔離された病室で過ごしています。
最初は、主人公が18歳の少女にしては、文章が堅めかな? と思ったのですが、読み進めるうちに、淡々とした文体が、蓮華の無情感や虚無感を表しているのだと感じました。
おそらく現代日本の物語かと思われますが、美しく儚い雰囲気が、まるで遠い国のお伽噺のように響きます。
前半は、蓮華の痛々しい描写に胸を痛めましたが……。
その分、ラストの儚い美しさが引き立っていました。
桜が美しい理由は、死体が埋まっているからではなくて。
きっと、このような美しい物語が、桜のもとで紡がれてきたから。
蓮華と先生の約束は、いつか叶うのかな。
叶うといいな。
桜を見るたび、そんな思いを馳せようと思います。