駅前のホテルにウェイターの男が現れた。ホテルの配膳人のアルバイトをしていた室谷健二は社交性に欠け、友達と呼べる者も持たず、夜の街を徘徊したり妄想に耽ったりして余暇を過ごし、孤独につけ狙われていた。健二の心は自らの満たされない欲望と現実の間で荒んでいく一方だった。そして、世間が享受している表面的な幸福に嫌気がさしていた。
ある日、彼はある女性と出会い、惹かれていく。彼女は市内の公立高校に通っている麻美。父親を早くに亡くし、母と二人暮らしだった。彼女の母親は労働意欲を失ってアルコールに溺れていた。麻美も病弱であったため極貧生活を余儀なくさせられていたが、高校生でありながら生まれ育ったアパートを守るために必死に働いている。
ある日、健二は貧しさ故に将来を閉ざされた彼女の密かな野望を知ることになる。