僕の住む町には、森があった。
その森は異様なほどに青く、不気味なほどに静かだ。
人が近寄らないはずの森で、僕は古びて傷んだヴァイオリンを手にした青年と出会う。
青年と僕は、何を話すわけでもなく、すれ違うだけ。
そんな中で、僕は青年の日々を垣間見る。
空色の森を司る女神、鈴姫。
耳に痛む音を奏でるヴァイオリニスト。
彼等の静かな逢瀬を、僕は知った。
青い青い森の中に、聞くに堪えないヴァイオリンの音が木霊する。
その音が、どれだけの救いになっているのだろう。
愛している人に、愛していると言えますか。