夏が私を裏切った。

作者桜田ナツ





 幾ばくかの時が過ぎて、ふと思い出したように瞼を閉じれば、あの日の夏が甦る。



「お前、名前は?」


「高橋」


「ちげえよ、それはお前の家の名前だろうが。俺が聞きたいのはお前の名前なの。お前の、名前。分かるか?」


「……橙子」


「へえ、トーコか……いい名前だな」


「あなたの名前は?」


「お前は知らなくていいよ」



 夏の始まりと終わり。ほんと数十日の間に移り変わっていく人の感情と季節の移ろいが、私はひどく愛おしいものだと知った。