遠野ましろ
あたたかな童話のような、幼き頃の宝石箱のような
世界を紡ぎだすイントロが素敵。痺れるラスト。P.42は見るだけで何度も涙腺緩みます。P.28も35も泣くっきゃない!
絶妙な描写は、例えばP.29。
豪華なシャンデリアが私を惨めに照らし出す。
ああ…本当そうなんです。好きな人と仲たがいして、きらびやかさが惨めでしかない。
このように、さらりと練りこまれた所々に唸らされました。
P.17以降は『いろいろ』にひっかかり…夢に向かう彼を応援しつつも、寂しさに引き裂かれそうな心。主人公が悩み考える姿、実は小説の半分近くを占めています。
あの葛藤があるからこそエンディングが生きてくる。読後のカタルシスといったら。
登場人物とモノも吟味され、過不足なし。仮に、登場人物がもっと多いか少ないか、主役二人にライバルが割り込む作品だったら、読後感が全然違ったはず。白王子も瀬川さんも全て意味があるんです。
然る所、小説とは何かを考えに考えて書かれた作品かと。コンパクトな中にも心を揺さぶる引力。更に言うと、安易なキスハグ等に逃げぬ所にも好感。
超技巧を凝らす作品ではないですが、光るものを確かに感じます。