「欲望ばかり高くて、努力できない奴は最低なんだよ」
男は言った。
きっとその通りなのだろうと、女は思った。
東大大学院卒、キャリア官僚、会計士そして弁護士。
恋を忘れた枯れた女でさえ、盲目的な女に変えてしまうほどの容姿。鍛えぬいた身体。
いつだって努力を休まない。誰にも何にも負けてないのに、そのくせ優しすぎる言葉。
「そうね、あなたにかかったら、誰だってキリギリスみたいだわね」
女はため息をついて、高層マンションの夜景を見下ろす。
ウィスキーの氷が解けて、半分の体積になってしまっている。もう、何本目なのだろう。
男は煙を吐き出しながら、微かに笑う。
女は耐え切れなくなって氷を頬張る。
男の瞳孔は、どうしてこんなにも悲しい色をしているのだろう。