「好き」だけで良かった頃を過ぎて【完】

作者邯鄲の枕

物語の最後の行間――ここにはアナタ自身が伝えたい又は伝えて欲しい言葉を心に思い描いて読んで頂ければと思います。

 慣れないネクタイを締めると、同時に気持ちも引き締まってくる。


 昨日の仕事帰りに散髪したばかりの髪先を、知らず知らず指先で弄ぶ――


 卓上に置かれた鏡でネクタイの具合を確認。うん、大丈夫。曲がったりはしていない。


 気合を入れる為に、頬を両手で二度ほど叩く。思ったよりも小気味良く響く音を合図に僕は立ち上がった。


 この日のために買ったスーツは、流石おろしたてだけあって皺の一つも見当たらない。と言うか、あったらそれこそ大問題だけど。


 心の中で、忘れ物がないか反芻する。


 ――良し、行こう。




 玄関を開けて外に出る。と、ここ久しく目にしなかった陽射しが祝福するかのように自分を照らしてくれた。


 眩しさに目を細め手を翳しながら、僕は一歩を踏み出した。


 君の元へと続く道――その道を、僕は自然と軽くなる足取りで歩いていく。