繭結理央

踊らされるわたしたち
珠美さんと町子さんの、本当になに気ない会話。よくありそうな、なのに、どこにもなさそうな「異質」な会話に感じるのは、ひとえに佐野香さまの筆に宿る、色っぽい香りがそうさせているのかも。

現代劇にようにも読め、また、まるでモボ(モダンボ-イ)・モガ(モダンガ-ル)のセピアな時代をも匂わせる、木目細やかな作品です。

目は口ほどにものをいう、といいますが、唇ほど存在感のあるパ-ツもなかなかないんですよね。一種独特な、そして妙に独立したがって止まない我がままなパ-ツ。

伝達のクッションであり、

色気のオフェンスであり、

偽りさえも端に浮かべられる。

パ-ツというよりも、もはや、いち存在といっても過言ではありません。わたしたちはもしや、唇の掌のうえで「すっかりその気」のまま、踊らされているだけなのかも知れない……そんな可笑しさを、高潔さを失わないで上品に描いています。


佐野香さまの作品、以前から大好きで愛読しております。催促なんてもっての他ですが、それでも佐野香さまの香り、わたしはさらに期待して止まなくなりました。