俺の初恋があいつだなんて、あいつはちっとも知らないだろう。
でもあいつはあいつのくせにずっと俺の心を占拠して、俺はたまらなくなって、ベランダの戸を開け、夜、星を眺める。
そうしたら隣のベランダの戸が開いて、中からあいつが出てくる。
「あっ、星が出てる。月は半月だねぇ~。」
あいつはベランダの床に座りこんだ。
「人ってさ、どうして人が亡くなるとき、あの人は星になったっていうんだろうね。月じゃ無いんだよね。」
「さあなぁ。」
「多分さぁ、きっと星は輝いてるからだよ。死んだ人は死ぬと光になるんだよ。
きっといい奴だったら。
イヤな奴だったら『あいつは星になった』だなんて、きっとそんな風には話さないでしょ。
イヤな奴は忘れさられていくだけ。
コイツは精神が、魂が深い。
その瞳は深く沈み込んで、夜空の世界と同じ世界を渡っていくようだった。
俺はあいつの横顔を感じていた。