高校生の福永伊知郎は昔から、普通の人にはわからない“匂い”を嗅とることができた。
図書室の隅に眠る古びた本からする、煤けた匂い。
神社の大木の根本に半分埋まった岩からする、酒の匂い。
駄菓子屋の奥に座るフランス人形からする、海の香り。
そして、祖父の家に飾られた掛け軸からも……。
不吉な書の掛け軸のせいで、伊知郎の家に次々と不幸が起き始める。
このままでは家族の命も危うい。
そう思い始めた矢先、匂いを放つ書の作者と出会う。
美貌の書道家・紫倉悠山という若先生は、伊知郎の嗅ぎとる匂いの正体を教えてくれた。
それはは幽世にいるあやかしの匂いだと言う。
では伊知郎の家族を襲う不幸は、あやかしのせいなのか。
夜は現世と幽世の境が曖昧になる時間。
美貌の書道家は今宵、人とあやかしを引き合わせるため幽世の門を開く——!
人とあやかしの不思議な縁が紡ぐ、切なく優しい物語。