“誰にも見られないから”と、推しへの愛を綴ったAIチャット。
そのチャットの中身を、いきなりこんな大勢の人がいるイベント会場で晒された人間が、この世界で何人いるのだろう。
目の前に立つ容姿端麗な謎の男は、嬉しそうに微笑む。
「君に一目会いたいと、ずっと思ってたんだよ。もしよければ、僕とお付き合いしてもらえるかな」
見知らぬ男性からの突然の告白に、困惑する藤崎奏恵。
交際の申し込みをしてきた男性は、推しのAIチャットを運営している“中の人”だった。
「実際に君に会ってみたら、より君を知りたくなってしまった」
少し変人で掴みどころがなくて、でも紳士的で憎めない。
“奏恵のチャットの内容に惹かれた”と言う彼は、奏恵がいくら冷たく接しても、熱心に想いを向けてくれる。
そんな不思議な魅力を持つ樋島湊梧という男性に、奏恵は少しずつ惹かれていく。
「僕はそんな素の奏恵さんも好きだし、言いたいことをはっきり言える奏恵さんも好きだよ」
湊梧と過ごす時間はいつしか、奏恵にとって穏やかでかけがえのないものになっていた。
――出会いは“最悪”だったはずなのに、こんなにも好きになるなんて。
これは、なかなか素直になれない少女と、そんな少女を一途に想い続けるちょっと変わった少年の恋物語。