「じゃあ、できた人から手をあげていって。見ていくから」
全体に声をかけ、教室を回る。
手が上がった。北見真帆だった。
足が強張るのを感じた。机の間をぶつからないように移動する。
席の前に立つと、彼女は解答用紙のわきを軽くペンで叩いた。
新作、入荷しました、とだけ書いてあった。
彼女の上目遣いが私を捉える。挑発するような眼差しだった。
続いて、赤ペンが私に向かって差し出される。
教室を見渡す。誰の手も、誰の顔も上がっていない。
『待ってるんですけど』
何を? 店に来ることを? 答え合わせを?
『先生』
(本文より)