初音は月に一度行く居酒屋で雪灯り、という日本酒に目をとめた。そこに偶然幼馴染である栗村勇作がやって来た。勇作は栗村酒造という造り酒屋の息子であったが、両親の死によって蔵はなくなっていた。彼は大学を卒業後、酒造メーカーで働いていたが杜氏になり、自分の蔵を持つことになった。そこで作られていたのが雪灯り、だった。
以前、栗村酒造で作られていた日本酒『月灯』のラベルの文字は勇作の母である優子が書いたものだ。雪灯り、と書かれた文字とよく似ていることから優子が書いたものだと思った初音。だが、優子は亡くなり勇作が書いた文字だった。
優子はお習字の先生で、初音はその教え子だった。母親のいない初音は、優子に母親の面影を重ねていた。
家に帰った初音は町を離れるときに優子から貰った習字の筆を取り出した。勇作と結婚すれば初音の本当の母親に慣れるから大きくなったらそうすることを約束したことを思い出す。その約束は果たされることはないが、今でも優子は心の母だった。
ショートストーリー
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