「現実逃避
ここに来た君たちはよくこの言葉を理由にするね。けど、それは本当にそうなのだろうか?と
疑問に思う人が一体どれくらいここに存在するのだろうね。」
そう言って部屋の主は徐に、瑠璃色に染められた箱から煙管を取り出し火をつけ、一息ついた。
よく見ると煙管は何本か収まっており、そのどれもが細かな細工が施されている。
透明な水晶で造られたシャンデリアからあわい光が漏れてくる。
薄紫色に染められた天蓋に囲まれたアンティークな革張りの椅子にさりげなく飾られた宝石
どれもが部屋主の心の有り様だというのだ。
私も、いつかはこんな風に自分の好きなように飾った部屋を持ちたいものだ。と、考えていると
主が白い煙をふかしながら
「さて、ここに来たと言うことは君もこの世界の有り様を知りたくなったのかね?」
一度も私と目線を合わせることなく、淡々とつぶやくように尋ねた。
「あの、世界の有り様なんて大袈裟なものじゃないんです。その・・・なんというか・・・」
「ふふん、では君はいったい今何処にいると言うのだね?」
まるでこちらの質問の確信を得たように、部屋の主はニヤリと笑って見せた。