魔法が当たり前に存在するこの世界。
バルティア国では王子が成人の日に魔法使いから願いを叶えて貰い、逆に魔法使いも一つ願いを叶えて貰うという儀式が遠い昔から行われていた。
もちろんこれは建前で、願いはずっと「国の平和」「魔法使いの安寧」と決まっており、一種のまじないの儀式であった。こうして当方は平和な共存関係を築いていっていた。
第一王子であるユリスが成人を迎える一週間前、双子の兄であるシノンが突如失踪した。双子の妹であるカノンが兄に扮して城へ向かう事に。
とにかくバレずに何とか過ごそうと思ったが、すでに願いが決まっていると言う王子は宣言したのだ。
「魔法使いよ、私を―――殺してくれないか?」
話をしていくと、ユリスは妾の子の自分より弟のギルに王位を譲りたいが、彼を狙う暗殺者の存在を心配していた。
二人で過ごしていくうちに、城内で孤独に生きるユリスの存在にカノンは胸を痛めていく。
途中女であることがバレてしまうが、ユリスは初めて真っ直ぐ向き合ってくれるカノンの気持ちに徐々に惹かれていっていた。
カノンのおかげで弟と過ごす数少ない時間を作ることができたが、暗殺者が現れ戦うことに。彼はギルの従者であり、ユリスの元従者だった。彼自身も歪んだ跡目争いの渦に巻き込まれた一人で、ユリスのためを思い弟の暗殺を企てたのだ。
カノンの魔法で三人は怪我無く済んだが、従者の男は自殺をしてしまった。
儀式を翌日に控え、ユリスは改めて願いを伝えてきた。
「私を殺してくれないか?」
それは最初と変わらない願い。あとは自分さえいなくなれば、跡継ぎの問題もすべて解決し平和になる。どこまでも優しく、家族想いな彼の願いを断ることができなかった。
当日。カノンの魔法により、辺り一面光に包まれる。ユリスは目を覚ますと周りの人間すべてが気絶していた。ユリス本人は何も外傷が無く困惑していると、一つ異変に気付く。誰も自分の事を覚えていないのだ。
そこへ一人の魔法使いが現れた。本当は儀式に来るはずだった兄のシノンだった。
倒れたカノンとともに城を脱出し理由を尋ねると、どうやらカノンの魔法はユリスを殺すのではなく彼の存在自体を消す。つまり人の記憶から消し去る魔法を発動したのだ。
「あなたの人生を生きてください」
カノンの言葉に、ユリスは涙したのだった。