始まりは語り部の皮肉な言葉から始まる。
「他人の人生の話を、受け入れられるのは単純な自己幸福を叶えているからにすぎない」と。
つらつらと回りくどく、まるで証明するかのようにその言葉の意味を語り続ける。
だが、彼女とてそう語るのが本望ではない。偉そうな言葉を連ねていたが、結局彼女は「私」と言う人生について語り始めるのだ。
「私」の人生は、イジメ・他者からの裏切り・自己の性認識などと言ったあらゆる問題から、自分自身を孤独という言葉で埋め尽くされている人生だった。幼くしては多く、そして重すぎる問題に対して彼女は、できる限り逃げることを選択していた。
「普通ではない」と言う強い思いを心のうちに秘め、それでも「普通でありたい」と願う彼女は、自分自身を完全に見失っていたのだ。
そんな「私」の前に、次々と起こる出来事が彼女の人生をゆっくりと翻弄していく。
彼女の前だけに現れる不思議な少年。
謎かけのような言葉ばかりを口にし、彼女に答えを与えようとはせず、いつも彼女と一定の距離を取りながら対話を楽しむ。
恋愛における葛藤と失恋。
「私」が恋をしている相手とされている相手、その相違が彼女の本心を浮き彫りにさせ、「私」は自己の本心を自覚するもやはり「普通である」ことから逃れることはできないでいた。
そして、自由奔放な絵描き女性。
彼女からの一方的な依頼に応じた「私」は、彼女の特殊な感性に「私」自身の感性を揺るがされたり、動揺させられたりと彼女の人生は色とりどりだった。
彼女はそれらから真正面と立ち向かったり、ごまかしたり、時には逃げ出したりして日々を過ごす。
だが、彼らが残す言葉や行動に触れるたびに「私」の中で化学反応が起きていく。
ある時は、安らぎを。ある時は、混乱を。そして、またある時は自由を。
だが、彼女の中でうずまく事象たちは、少しずつ「私」に影響を与えていったが、「私」の中で上手く消化することが出来ないでいた。そんな時、女性は「私」に筆を向け、
「今の貴女なら何が描ける?」
と突如として彼らから難題を突き付けられた「私」は、その議題に一人立ち向かおうとするも、上手くはいかず、やがて「白色」という結論を出したが、それでも自分に納得がいかない「私」。
しかし、彼女が「白色」であることは仕方がなかった。なぜなら、「私」は自分の前に現れた少年や女性に依存するような形で「私」という人格が形成していたからだ。自身の人格をしっかりと形成しきれていない「私」は、どうあるべきが、自分なのかに悩んでしまう。
「私はこれで、本当にこれで良いのか」と悩んだ時、どこからともなく、彼等の声が聞こえてきて「私」は無我夢中で走り出す。土砂降りの中、彼らを必死に探すも見つからない。絶望の淵に立たされた彼女であったが、彼女は偶然に出会った老婆との関わりの中で、人の心の温かさや人生に触れ、一人の人間の「私」と言う答えを見出し、彼等との別離を覚悟した「私」は、自身で一つの回答に気づき、絵を完成させる。
それからの「私」は人が変わった様に、一人、果敢に日常を過ごしていく。そこに彼らがいなくとも、「私」は「私」として生きていくことが出来るようになっていた。
そして、二十二歳。
その時の「私」は未来を見据えていた。他の誰でもない、「私」と言う人生を歩む覚悟が出来たのだ。
そして、遂に迎えた就職面接。「過去の私」を受け入れ、
「私の名は……」と胸を張って、自分自身の名を何ら偽りなく、笑顔で語れるようになるまでに成長していた。
多種多様な世の中になる中で、一人の人格形成を綴ったという単純な文章。
けれども、これは語り部である「私」が一人の『私』になるまでの物語
この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません
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