人はそれぞれの“心珠”をもって生まれる。
本人が念じれば手の中で出現させられる“心珠”は、欧化が進む今日でも未だに謎に包まれたままだ。
“心珠”には、ひとつとして同じものがない。それぞれがそれぞれの色と煌《きら》めきを宿している。
(本文より抜粋)
女性医師の縫《ぬい》は、自宅の敷地で診療所を開きながら、“心珠《しんじゅ》”に関する相談にも乗り、研究をしている。
齢二十八にして、独身。世間では、とっくに結婚して子がいる年頃だが、縫は色々と逸脱しすぎている。それをとがめる両親祖父母も、今はいない。
先輩医師にして下宿人の男性、安利《あんり》とは深く想い合う仲だ。
汚い“心珠”だと卑下される縫を、安利は「可愛い」と褒め、縫に寄り添う。
「いつまでも一緒にいよう。そのためなら、俺は何だってやる」
ふたりきりになったこの家で、ふたりは夫婦の真似事をする。
◇ ◆ ◇
現代では差別的なニュアンスのあるフレーズがありますが、差別を推奨するものではありません。
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