みやが死んだ日
みやが死んだ。
みやは本名「佐々木 雅」《ささき みやび》一年前に別れた私の元彼。みやはとても友達思いでいい人だった。私は、お通夜にもお葬式にも参列させてもらった。みやは眠っているようで、不思議と涙も出なかった。お葬式当日、みやは階段から落ちそうな友達を助けて転落してしまったと聞いた。最後まで友達思いのいい人だったんだなあと心底思った。私はお葬式の翌日、バイトしているお店に向かった。妙に頭が真っ白で、空っぽになったようだった。いつもは何も考える時間もないほど混んでいるのに、今日はやけに空いている。何も考えたくなかったのに。私はみやとの過去を思い出していた。そうだ、私はみやにまだ謝ってないことがある。
思い出すこと一年前、私はかいくん、本名「矢澤 海斗」《やざわ かいと》と出会い一ヶ月後に付き合うことになった。出会いは私の親友らい、本名「杉浦 らい」《すぎうら らい》のSNSでかいくんを見て私が一目惚れしたことだった。かいくんとらいは同じ高校に通っていて、私はすぐにかいくんと連絡先を交換することに成功した。一目惚れしてしまった私は、嬉しくて舞い上がってしまっていたのだと思う。連絡先を交換したその日、私はかいくんにメッセージを送ってしまった。そこから話は盛り上がり毎日話す仲になっていた。私はその日もかいくんとのメッセージを楽しみにしていた。その日はかいくんから連絡が来た。「彼氏っているの?」私はドキッとした。
そう。私はその時まだみやと付き合っていた。当時私はずっとみやとの別れを考えていた。
私と遊ぶときはいつもゲームばかりだったし、コンビニに行くのもいつも私一人。あまり私の気持ちを考えていてくれないのだと思っていた。友達とは遅い時間まで遊んでいるし、何をするにも一緒にいるのに、なんで私とは。と、思ってしまっていた。それでも二年付き合っていたみやと、別れる覚悟がなく、ずるずると別れずに、かいくんとのメッセージを楽しみにしていたのだった。
私はかいくんに「一応いるよ。でも、うまくいってなくて、別れようと思ってるの。」と返信を返した。かいくんが私とみやとの関係を知るわけもなく、「そうなんだね。大変だね。辛かったら相談乗るからね!」と優しい言葉をかけてくれた。私はみやに何も言わずにいつも通りの生活を送っていたのに。
でももう恋に落ちてしまっていた私は、なにより、かいくんに嫌われたくなかった。でもどうすればいいのかわからなかった私は、親友のらいに相談した。するとらいは、「好きになったならしょうがないじゃん。これ以上に何かある?」とあっさり私の背中を押してくれた。それでも私はみやとの思い出も思い出すと胸が痛くてメッセージを送れなかった。
翌日私はみやと私の家で映画を見ていた。一度別れて大人になってから再会し、また恋に落ち、結婚して幸せになる。そんなありきたりな恋愛映画だった。泣き虫な私は、映画を見ながら泣いていた。みやと別れることも忘れて、くっついて映画を見ていた。みやは涙を拭ってくれる。幸せそうに私を見ながらみやは映画を見ていた。映画が終わり、私はみやがくれたアルバムを見返していた。その時、「ねぇ、別れよっか。」私はなんの意識もせず、そう呟いていた。みやは泣きそうな顔をしながら、「るいか、?俺、別れたくないよ?」と口にした。その時私の頭には、かいくんが浮かんできてしまった。私は泣きながら、「ごめんねみや。もう疲れちゃったの。終わりにしよう。」と告げた。みやはポロポロと涙を流しながら、「俺、何かしちゃったかな?なんでも言ってよ。直していくからさ。」と言った。でも私の頭にはかいくんしか出てこなくて、そのまま別れたのだった。その日、かいくんに電話をかけ、「別れちゃった。」と涙を流しながら告げた。かいくんは優しく「大丈夫だよ。落ち着くまで話聞くからね」と言ってくれたのだった。
でも二年のみやとの思い出が消えるわけもなく、私が振ったのに、ましてや好きな人ができているのに、復縁したいと何度もおもい、別れて数日間はみやとのメッセージは続いた。みやは私に「復縁しよう」と言ってくれた。私はその気持ちに負け、「うん。」と言ってしまったのだった。でもかいくんへの想いはとまることはなかった。これじゃ振り出しだよ。と思い、その日中に、私は「やっぱり復縁は無しにしよう。」と告げたのだった。その後連絡先を消し、高校も違うので会うこともなく、かいくんとのメッセージを交わす日々が続いていった。
別れて一ヶ月が経った頃、かいくんから告白された。「別れてすぐだから言おうか迷ったんだけど、おれ、るーがすきだよ。付き合ってほしい。」と。かいくんは私のことを「るー」とあだ名をつけていつも可愛らしく呼んでくれる。そんなところに私はまた惹かれ、告白を受けたのだった。そこから一年、みやとの日々を思い出すこともなく、幸せにかいくんとの日々を過ごしていた。
バイト中だった私は、泣いていた。泣いていたというよりは、自然と涙が出ていた。その日はバイトを早めに上がらせてもらい、家に帰った。すると、らいから、「今から××に来い。渡すものがある。」とメッセージが来た。私はどうしたのかとすぐに指定の場所へ向かった。らいは黙って私に一つのノートを渡した。「これなに?」と聞くと「家に帰って開いてみなよ。」といわれた。私はすぐに家に帰り、ノートを開いた。ノートを開くと、そこには別れた日からみやが死ぬ前日までの私への気持ちがつづられていた。
「今日、るいかに別れたいと言われ、別れてしまった。大好きなのに。」「今日復縁をOKしてくれた!またやりなおせるといいな!」「るいかに彼氏ができたらしい。涙が止まらない」など一年分書き記されていた。私はボロボロと泣いた。こんな私をずっとずっと好きでいてくれた。一番に思ってくれていた。そんな人を私は忘れ、かいくんとの日々に溺れ、一人で幸せになっていた。あんなにみやを傷つけたのに。
その日、私は一晩中泣いて、疲れて寝ていた。学校に行かなくちゃいけないのに、いきたくない。私はズル休みをした。無性にみやに会いたくなった。私は自然とみやの家の前にいた。
すると、みやのお母さんが、「るいかちゃん…どうぞ。」と、みやの部屋に案内してくれた。みやの部屋には私があげたプレゼントや手紙、お揃いのマフラー、そしてもう一冊のノートが大切に保管されていた。そして私はまた泣いた。「みやびは、るいかちゃんを待ってたみたい。毎日21時ごろに家の前に出て誰かを待っているみたいだった。」とみやのお母さんが言った。21時…私がバイト終わりに会いにいく時間だった。泣きながら私はもう一冊のノートを開いた。そこには後悔やこれからみやが変えていこうとしていたことが書き記されていた。「るいかは、俺が幸せにする。」
泣き止み、家に帰った私は、かいくんにメッセージを送った。「クズな私でも、許してくれる?」かいくんは「もちろんだよ。クズなんかじゃないし。」と返してくれた。私は自分のしたことときちんと向き合い、かいくんを大切にしようと心に誓った。
そしてもう二度と同じ過ちは犯さない。
みや、好きでいてくれてありがとう。大好きでした。