ーー旧校舎 音楽室ーー
七遙side
2時間目も中盤俺は一人旧校舎 音楽室の前を通ったとき思わず足を止めた。
今まではこんな時間に学校で見かけることなど滅多に無かった人の姿を見つけたからだ。
窓際の棚に腰掛けるそいつの目線は窓の外へと向けられている。
本当に綺麗な顔だな……
横顔からでもその美しさに男の俺でも惚れ惚れする時がある。
「…… 七遙」
それに声までいいと来たら、天は人に二物を与えずは嘘だと確信する。気配だけで俺だと認識するあたりはさすが総長といった所か。
「ばれちった☆ウチの総長さんはこんなところで何してるワケ?」
おどけたように言う俺に対して蓮は無視。
そうだ、こういう男だと改めて感じる。
無表情、無反応、無感情。
普段一緒にいる俺らにすらこの態度が普通。
「……フッ」
そんな蓮が窓の外を見ながら微かに口角をあげる。
珍しい……事もなくなった、蓮の表情が少し豊かになった。笑うようになったのはきっとあの子と出会ってからだ。
案の定、俺は気になって窓際の蓮に近づく。
あーあ。なるほどね、旧校舎の溜まり場ではなくわざわざこの音楽室にいる理由を窓の外をみて一瞬て理解する。
蓮と俺の目線の先には1ーAの教室が見える。
ちょうど、あの子が教師にあてられたのか顔を真っ赤にしながら慌てて教科書をめくる姿が目に入る。
「蓮チャンも好きだねえ」
「…………うっせ」
そう言うと再び窓の外へと視線を戻す蓮。
これ以上ここにいても仕方ないので、蓮をおいてそっと音楽室を出る。
「春だねえ……」
旧校舎の溜まり場へ向けて廊下を歩きながら呟いた。
俺は溜まり場でのんびりお昼寝でもしようかしらねぇ。
ーー春。日常が新たな日常へと変化するーー
「これからが楽しみだねえ」
七遙side fin