航とタバコと愛のカタチ。
慣れた手つきでタバコを咥えて、ゆらゆら揺らめく炎が航の長くてキレイな指へと隠れる。
わたしはいつもその瞬間に見惚れて身動き取れなくなるの。
そんな優しい手つきでタバコを愛せるのに、なんでその手でわたしを愛してくれないんだろう。
時々タバコが羨ましくなるよ。
航の中に吸い込まれて灰となって消える瞬間も最高に気持ちいいかもしれない。
わたしはいつまでも、航の特別になれないから。
近くにいるわたしなんてもう航の目には映ってないのかもしれない……、そう不安に思うほどわたしはこの部屋では空気のような存在。
航のリビングのソファーでクッションを抱えながら、童顔で甘めフェイスな男が慣れた動作でタバコを味わう姿を見つめた。
航のこの見た目に騙されて、狂うところまで流された女性を間近で見てきたのに、わたしもついにこの毒を飲んでしまった。
あんなに抵抗してた気持ちも受け入れてしまえば、悩んで葛藤していた頃より落ち着いて、それ以上に爆発して求めることもなかった。
今のところ狂わず現状を保てている。
「そういえば、この間、寛也たちと駅で吸ってたら俺だけ年齢確認された」
私の存在を完全に忘れていたわけではないことを航の声で認識できた。
「うそ!航、まだ年齢確認されるの?」
「俺、成人してますよって言ってんのに免許証見せろって言うから見せたら謝られて。寛也たちに笑われるし…。まじ萎える」
「年齢確認、更新だね」
24歳のときに年齢確認されたときも、まじかよーなんて項垂れて、寛也たちは涙目で笑ってたし、これが最後かなって思ってたのに、26歳に更新されたそうです。
「やっぱ髭生やそうかなー」
「似合わないからやめた方がいいよ」
「痒いから嫌って言われるしな」
それはどこぞの女のことだよって思わず口から出そうになる言葉は喉の手前で踏みとどまった。
いくらでも付き合うから。
航となんの意味ももたない会話だって、全部わたしは大切だよ。
航のそばに何人もの女性がいたってわたしは航から離れないよ。
航が寂しくなければいいんだ。
わたしのこと全て投げ出して愛さなくていいから。
わたしは、航が求める小さな声が届く限り離れずそばにいるから。
だから、これからも、航の吸うタバコに小さな嫉妬をさせてね。
これもわたしの大事な愛の形。
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