生まれてきた意味を知っていますか?
「ねえ、今日はなんの日か知ってる?」
家に持ち帰った仕事と睨めっこをして、片手に書類を持ちながらパソコンと向き合い続けた慎太郎が、やっと、わたしの声で顔を上げた。
ーーーねえ、なんの日か知ってる?
遠距離だった。
中々会えなくて、わたしは慎より年が上だし、会えない分は仕方ないと割り切れてたけど、今はこんな近くにいてすぐに手が伸ばせる距離にいるのに、こんな遠くに感じるよ?
わたしの声に顔を上げた慎太郎は、こわばった顔から一瞬にしていつもの優しい慎に戻った。
すぐに私の目の前まで来てくれて、長くてきれいな指で優しくわたしの涙を掬い取った。
「今日は、慎の誕生日だよ、特別な日でしょ」
涙で視界がにじむ。
たかが誕生日、されど誕生日。
自分の誕生日のときは、お祝いを口実にケーキが食べられれば満足。
だけど、慎太郎のときは違う。
初めて触れることができた過去に、私はやっと慎のそばにこれたと思った。
救いたいなんておこがましいことで、ただ、この先もこれからも、慎に必要ない傷ができることを阻止したい、慎と一緒に過ごしたい、この日常を大事にしたいと思うの。
「慎、お誕生日おめでとう…、わたしは、誰かなんと言おうと、わたしは、わたしは慎が生まれてきてくれて嬉しい。慎は、わたしが慎と会いたかったから生まれてきてくれて、わたしが出会いたいからここまで耐えてくれたと思うの」
「…ちがうよ、俺が香奈に会いたかったからだよ。そうだよな、誕生日、大事にしていこうな」
「仕事仕事ばっかなってるところもかっこいいけど、放置しないでほしい。寂しいよ」
「……いつも、年上だからって甘えてこない香奈が甘えてくれるなら、仕事がんばるかいがあったかも」
本当に嬉しそうに笑う慎がムカついて、思いっきり飛び込む形で抱きついた。
慎は全然ダメージ受けてる様子なく、わたし以上の強い力で慎の中に閉じ込めた。、
「、、、慎、生まれてきてくれてありがとう。これからも、一緒に生きていこうね」
何も言わない静かな慎から伝わってきた反応は、首筋に落ちた小さな小さな滴と強くなる腕だった。
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