俺のこと本気じゃないくせに。
ほんの出来心だった。
俺は人の気持ちを読むのが得意だった。
人の心のうちにするりと入ってその子の”気持ちをわかってあげる”なんて簡単で、欲しい女はほとんど手に入った。
里奈もそうだった。
俺に好意があるのに、彼女の存在に遠慮して好きじゃないふりをする。
その気持ちを軽く遊ぶつもりだったのに、俺に必死に気づかせまいと嘘を重ねる姿に、ぞくぞくと快感をえた。
可愛いと思った。
素直に、可愛い、好きかもって。
触れれば俺に応えようとする姿も、俺に完全に捕まらないように必死にしっぽを隠す姿も。
可愛いと。
もっと一緒にいたいと、思うようになった。
俺が里奈の家に行くと、嬉しそうな気持ちを隠しきれずに笑顔になって、触れれば瞳の奥に傷つく自分を隠して、俺にすべてをゆだねてくれる。
だけど、傷つけたいわけじゃなかった。
ただ、怖かった、だけ。
俺も、いつのまにか里奈に本気になって、里奈のことを好きになって、本気で人を好きになるって怖いことなんだって初めて知ったんだ。
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