小説『三日月の片想い』
あとがき
まずは長編小説「三日月の片想い」をご愛読いただき、誠にありがとうございました。
私がこの物語を構想したのは2017年、書き始めたのは2018年、完成したのが2023年となり、完結まで6年かかりました。
作り終えてみると、構想した当時はもっと軽い気持ちで書き始めましたが、ミステリー要素、構成、知識、恋愛描写、どれをとっても私自身にとっての最高傑作になったと実感しています。
また、自分でもまだこんな文章を書く力が残っていたのかと、改めて自身でも驚きました。
さて、以降はネタバレも含みますので、まだ最後まで本編をお読みでない方はご留意ください。
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・物語の構想と結末
この物語を書こうと思ったきっかけは、よくある記憶喪失になったら記憶がないのに、なぜ言葉は話せるのだろうと思い、調べたのがきっかけでした。
記憶には種類があると知り、記憶喪失にもいろいろな種類があるものだと興味を惹かれ、調べていくうちに物語を構想するようになりました。
また、ネットでレイプドラッグを使った性犯罪の記事を読んだことで、こんな犯罪があり、それで傷ついている女性が沢山いるのだということを知り、それもまた物語を書くきっかけに繋がりました。
物語の結末としては、とてもハッピーエンドとは呼べないかもしれません。それでも、この結末ありきで書き始めた物語でした。
・「わたし」と「あたし」
本作では、記憶喪失の珠月を無垢で純粋な少女のようなキャラとして描きました。
それを表現するため、本来の珠月は「あたし」、記憶喪失の珠月は「わたし」と一人称を使い分けました。
これにより前者は少しギャルっぽい大学生らしさを、後者はあどけなさを印象付ける形にしました。
・場面、場所へのこだわり
本作では過去作品以上に、登場するデートコースや場所、場面について名前を出したものも出さなかったものも、実在する遊園地、病院などをもとに描きました。また、2018年をベースに実際に上映された映画作品、イルミネーションのイベント内容など、リアルな場面を想像していただけるように物語に登場させました。
(実際、私自身が足を運んだ場所や見たものをもとにしているものもあります)
そのため、当時のネット記事やGoogleのストリートビューなど、たくさん調べました。
・症例や医学知識
本作では、私の作品では初めて、医療や症例に関する内容を詳しく物語に登場させました。
これを書くため、ネットに公開されている症例の概要や症状、原因、治療法など、いくつも調べ、たくさんの時間をかけて自分の言葉で物語で説明できるようにしました。
普段は勉強をしない医学という分野、調べていくなかでたくさんの発見があり、いい刺激になりました。
・本作に込めたメッセージ
本作品では物語を通して私なりのメッセージを込めました。
性犯罪についてと、辛い過去と向き合い前を向くこと。
性犯罪は日々起き、その中で泣き寝入りするケースがまだまだ多いと聞きます。物語を通して、性犯罪について考えるきっかけになっていただけたらと思います。
・謎
最後に、この物語の謎解きについてお話しします。
本作ではミステリー要素は、そこまで突飛なものはなく、また鮮やか謎解きの場面もありません。主人公の湊人は、拓海や刑事、珠月本人の語りにより真実を知っていきます。
ミステリー好きな方には、多少物足りなさがあったかもしれません。
ただ、この物語を最後まで読まれた方ならもうお分かりだと思いますが、恋愛要素にどちらかというと重きを置き、ミステリー要素はそれを盛り上げるためのスパイスだったと言えます。
そして、物語の一番ラストの一文に込めた意味、これは私の口からはあえて語らないことにします。
読者の皆様、それぞれのご想像をいただけたらと思います。
長くなりましたが、小説『三日月の片想い』、連載ありがとうございました。
また次回作にご期待いただけますと幸いです。
2023年9月2日
木幡 光