豊かな緑に囲まれた国があった。
そこで暮らす人々は謙虚で、質素な暮らしをしていた。
王は聡明であり、国民の期待に応えるため日々奮闘していたという。
とても住みやすくて、特徴的な国だった。
世界では差別の対象となっている亜人種たち。
彼らを快く受け入れ、共存している国は数えるほどしかない。
さらにもう一つ、大きな特徴があった。
この国には――【聖女】がいる。
一般的に聖女とは、神の啓示を受け、神聖な事績を成し遂げた女性のことを指す。
ここで言う聖女は、一般的なそれとは異なる。
王家の血を引く女性は代々、光の精霊と契約をする資格を持っている。
光の精霊は、他の精霊の中でも強力かつ神聖で、畏れ敬わられていた。
そんな存在と契約できる人間は、神に選ばれた人なのだろう。
と、大昔の人は考えたらしい。
以来この国では、光の精霊と契約できる女性を【聖女】と呼んだ。
そして私はこの国……
エストワール王国の王女として生を受けた。
これから語られるお話は、私に起こった悲劇。
幸せだった日々の終わりと、意図せず放り出された世界を巡る旅路。
悲しくて、辛くて、一人と出会って。
いつか報われる物語の――プロローグだ。