大好きな小説の作者と、自分を買った調教師が、同一人物でした。


【物語全体のあらすじ】


 1980年代、バブル経済の訪れる直前、東京は急激に発展していた。輝かしい経済成長を繋ぐために働き手が都に集まり、その人口増加はまさしく加速度的であった。

 そんな風に男手の増えて輝く東京のそばで、光の裏では影も発展していた。そこは東京近辺のとある歓楽街。膨れ上がった人口の分だけの膨大な愛欲を支え、煽られた炎のように繁盛し続けるその夜の街に、たった十八歳の孤独な少女、うめが足を踏み入れる。


 梅は身寄りがなく、親戚中をたらい回しにされた挙句に風俗嬢としてその街に身売りされた悲運の少女だ。けれどそんな逆境に折れることなく、むしろ反発するように強気で跳ねっ返りな性格に育っている。

 そこでたまたま少女を見かけたすみれの斡旋により、梅は調教師である男、ルークのもとへと運ばれた。

 ボロボロの衣服のままの梅はルークを睨みつけて嫌悪感を示すが、彼はそんな梅の態度など気にすることもなく、梅のこれからについて説明する。男は高級SM店と契約しており、梅を教育して引き渡す代わりに多額の報酬を貰うのだと言う。説明された契約内容の概要は次の通りだった。


<契約内容>

・ある程度の容姿と品格を備えている

・相手を満足させる幅広い知識と十分な技術を持っている

・肌に傷がなく、処女である

これらを満たした上の出荷で多額の報酬を渡す。ただし契約破棄の場合は相応の違約金を頂く


 暖かな衣食住を梅に提供する男は、あくまで仕事だからと淡白な態度で梅のことを軟禁した。

 当然そんな未来に納得できるわけのない梅は、その調教師の名前を知ることすらないほど徹底的な反抗を示した。

 それでも強制的に行われる昼の講義と夜の開発調教の中、梅はたったひとつだけ心の拠り所を見つける。それは国語の講義の材料として何気なく使われた、とある小説だ。イギリス旅行記のその本を読んでいる間だけは、軟禁されている息苦しい現実を全て忘れて没頭し、美しい物語の中で呼吸をすることができた。

 次第に梅はその小説と作者に強く恋い焦がれるようになっていく。作者名に記された〝ルーク〟の名前だけが、梅にとって唯一の手掛かりだった。


 そして、その敬愛する作者と調教師が同一人物であると知ったとき、梅にとって苦痛でしかなかったはずのルークとの日々が急変し始める。

 けれども二人の恋路には困難も多く、そして一年後には必ず契約の終わりが来て離れ離れになるという現実が待っていた。